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2012年4月21日(土)  巡拝6日目  曇のち雨

参拝札所:20・21・22番

歩行距離:37.3km

合計距離:157.8km

出費額:¥9,463

合計額:¥29,246

 

4:10起床。隣で寝ている広島のお遍路さんを起こさないようにそっと布団をたたみ(多分起きた…)、そっと荷物を持って外に出る。道路が濡れていているので雨が降っていたようだが、幸い止んでいる。意外と外は寒くない。爆睡できたようで頭はスッキリしている。無料遍路宿のおかげ。外で荷物の整理をし、4:30出発。暗い夜道を歩く。

夜道を歩く

今にも降りだしそうな空模様

空が明るくなるにつれ、怪しい空模様に不安が増していく。いつ降りだしてもおかしくない雲行き。宿を出て30分ほど歩いたところにコンビニがあったので、弁当を買って駐車場の隅で食べて腹ごしらえ。巡拝2日目3日目と強い日差しの中を歩いたからか、唇が荒れて痛かったのでリップクリームも購入。この時点ですでに肩が結構痛く、相変わらず右足首をかばって歩いているので足も疲れている。この調子で本当に結願まで歩き続ける事ができるのか不安になる。

宿から2時間近く歩いて、やっと第二十番札所がある山の登山道入口まで来る。もし雨が降っていたら遠回りして車道を歩くつもりだったが、幸いまだ天気が持ちそうなので歩き遍路道へ入る。歩き遍路道と車道では2.1kmも距離に差があるが、車道の方が歩きやすくて体力的には楽だと思われる。しかし折角歩き遍路をしているのだから、出来るだけ昔からある遍路道を歩きたい。

歩き遍路道は、標高30mのふもとから標高500mの山頂まで直線的に一気に登っていくので、道は勾配のきつい所が多くかなりしんどい。そのため山道に入って少し進んだ所に、無料で持って行っていい?金剛杖が束になって置かれていた。山道は最初は舗装されているが途中から未舗装になる。深夜に降った雨で地面は濡れていて、岩場や段差に敷かれた木や、枯葉が落ちている場所は特に滑りやすいので注意が必要。

急な山道のための金剛杖

勾配のきつい上りが続く

途中から未舗装の道

木々に囲まれ外の景色がほとんど見えない山道を息を切らしながら暫く歩いていると、不意に開けた景色が目に飛び込んでくる。入り組んだ山あいを流れる川の風景。霧掛かってとても幻想的な眺め。これはなかなか素晴らしい。苦労して山道を登る歩き遍路へのご褒美だ。苦労して出会えた風景だから一層素晴らしく感じるのかもしれない。

素晴らしい眺め

山道の入口にあった案内板には3.1kmと書かれていたが、思った以上にペースが遅くなかなか札所に辿り着かない。10kgの荷物を背負って山登りをするのは楽じゃない。2日前に宿泊したおんやど松本屋の部屋からいただいてきたパンフレットに、遍路道の標高差を表示した地図があり、それを見るとこれから先いくつも標高差の大きい山越えがある。正直四国参りがこんなに山道を歩くものだとは思っていなかった。結願までの道のりは長く険しい…

 

第二十番札所鶴林寺に7:30到着。納経所が開く7:00より早く着くと思っていたが、予想以上に道のりが険しく時間が掛かってしまった。本当にクタクタ。お腹が空いたので参拝後にコンビニで買っておいたパンを食べる。休憩ついでに金剛杖がどれくらい減っているのか長さを測ってみたら、購入した時より22mm短くなっていた。まだ150kmも歩いていないのに、結構減りが早い気がする。鶴林寺で暫く休憩していたら、巡拝3日目と4日目の宿で一緒だったご夫婦が歩きで参拝にやってきた。前日は山のふもとに宿泊して、そこから歩いて来たとの事。見知った顔のお遍路さんに会えると何だか嬉しくなる。

第二十番札所 鶴林寺(かくりんじ) 山門

鶴林寺 本堂

鶴林寺 大師堂

 

鶴林寺を出ると今度は山をずっと下っていく。相変わらず右足首が痛く、段差を下りる時の振動が足首に響く。下りの方が体力的には楽だが、足への負担は大きい。鶴林寺のある山を下りて川を渡り、今度は第二十一番札所がある山を登る。また山の上にあるのかっ、登ったり下りたり本当に大変。平坦で歩き易い舗装路に早く戻りたい。

山を下りて

山あいの川を渡って

また山を登る

 

第二十一番札所 太龍寺(たいりゅうじ) 山門

太龍寺 鐘楼堂

第二十一番札所太龍寺に10:20到着。山門手前にある登り坂がもの凄い急勾配で、気を抜いたら転げ落ちそうなほどの心臓破りの坂道だった。正に修行の道という感じ。そして山門をくぐって境内に入った先にはさらに石段が続いていて、山門のようなつくりの鐘楼堂をくぐって石段を上った先にやっと本堂と大師堂がある。歩き遍路以外の参拝者は鐘楼堂の下までロープウェイで登って来られるので非常に楽。しかも荷物も軽装。自分で選んだ歩き遍路だが、苦労せずに参拝している人たちを見ると、どうしても恨めしい気持ちになることがある。まだまだ心が未熟な証拠

苦労して辿り着いた太龍寺の本堂は何と修復中で、シートに覆われ近づけないようになっていて、本堂の手前に簡素な木組みの仮本堂が設けられていた。四国参りをしているとは言え神社仏閣には基本的に関心がない自分ではあるが、苦労して歩いて辿り着いた札所本来の姿が見られないのは残念な気分になる。

太龍寺 仮本堂

太龍寺 大師堂

夜明け前にコンビニ弁当を食べ、ひとつ前の札所でパンを食べたがまた空腹になったので、境内にある自販機で買ったコーラでカロリーメイトを流し込んで空腹を抑える。鐘楼堂がある石段の手前にピンク色の綺麗な花が咲いていて、参拝者の多くが写真を撮っていたので、たまには自分の遍路姿も撮っておこうと他のお遍路さんに撮影をお願いする。今回の四国参りは旅行とは違うので、いつものように観光気分で自分の写真を撮ろうという気があまり起きない。しかしやはり自分が四国参りした事実を写真に残したい。白衣を着て遍路笠を被り、大きいリュックを背負って山谷袋を肩からぶら下げ、そして弘法大師の化身である金剛杖を持って四国参りをした記録を残したい。

何の花かは分からない

 

山歩きは疲れるが景色はいい

曇り空は次第に晴れに

太龍寺からまた山道を下りて行く。もう本当に山歩きは勘弁して…という気分。明け方は雨が降りそうだった空模様は、部分的に雲が晴れて青空が見られるようになり、周囲の景色も明るくなる。山歩きは景色を楽しむ分にはいいのだが、いかんせん荷物が重くて疲れる。荷物さえ無ければ随分楽なのに…と思ってしまう。しかし重い荷物を背負って歩く事も修行の一環であり、意味のある事なのだとも思う。そう思えば今の辛さも意味があると思えて、幾分気持ちは楽になる。

疲れた足取りで4kmほど山道を下りやっとほぼ平坦な道に出て、さらに2.5kmほど歩いて少し遍路道を外れたところにある道の駅へ。目的は食事。カレーライスと食後にソフトクリームを注文。四国参りを始めてから空腹に耐えてばかりで、そしてちゃんとした食事をする度に当たり前の食事のありがたみを感じる。人間が生きていく上で食べる事がいかに必要不可欠な行為であるか、そんな事は考えるまでも無いが、身を持って体験して改めて実感させられる。

道の駅で空腹を満たし十分休憩を取ってから、次の札所へ向けて再び未舗装の山道へ入る。もう余計な事は考えず淡々とひたすら歩き続け、山道を出たところに休憩所があったので一休み。再び雲行きが怪しくなり強い風が出始める。遍路笠を脱いでテーブルの上に置いた直後風に飛ばされ、すぐ足元にある小さな水路にポチャン。慌てて取り出す。雨避けのビニールを被せたままだったのでさほど濡れなかったが、笠に墨で書かれた文字の一部が少しだけ滲んでしまった。まぁこれくらいならいいかと、細かい事は気にしない。何より水路を流れる水が綺麗でよかった。

急な山道を登る

竹やぶの中を歩く

怖いよっ

そしてとうとう雨が降りだす。一時は青空も見えたのだが山の天気は分からない。とりあえず未舗装の山道を下りた後でよかった。レインウェアを着るのは面倒なのでリュックにだけレインカバーを被せて歩く。雨は弱くなったり止んだり本降りになったりを繰り返す。

 

第二十二番札所 平等寺 山門

本堂と大師堂へ続く階段

太龍寺から約11km歩いて第二十二番札所平等寺に到着。山門をくぐった先にある階段には、何故か片側に上から下までお賽銭が並べられていた。ここまで巡拝してきてこういうのを見るのは初めて。いつからこうなっているのだろう。自然と参拝者がここにお賽銭を置いていくのだろうか。平等寺の参拝中に一時強めの雨になり暫く雨宿りする。前日の天気予報では1日雨となっていたのでどうなるのか心配だったが、平等寺までは計画通り進めたので運が良かったと言えるのかもしれない。

平等寺 本堂

平等寺 大師堂

計画通り平等寺で打ち止め出来たので、あとは何処まで進んで何処で宿泊するかを考える。これ以上雨の中を歩くのは止めて平等寺隣にある宿に宿泊するか、まだ15:00をまわったばかりなのでもう少し頑張って歩くか、遍路地図を見ていろいろと考えた結果、20kmほど先にある立ち寄り入浴ができるホテルまで気合で歩き、そこで入浴して何処か雨をしのげる軒下で野宿をしようと思いつく。ちょっと頑張って距離を稼いでおこうかと。ホテルに電話して入浴施設の営業時間を問い合わせると21:30までとの事なので、1時間4kmペースで歩けば問題ない。平等寺から先は山越えも無く歩き易い舗装路が続くので、距離は長いがきつい道のりではないと考えた。雨が弱くなったところで平等寺を出て歩き出す。しかし…

 

平等寺を出て1kmほど歩くと雨脚が急に強くなり、シャツもジーパンもあっと言う間にずぶ濡れになってしまう。さすがにこれは厳しいと目に入った建物の軒下に避難。この雨の中20kmも歩くのは無理だと判断し、やはり平等寺の隣の宿に泊まろうと電話をする。しかし宿は満室だった。地図を見ても他に近くに宿は無く、あとは約11km先に四軒ほどある。どうすればいいか考え込む。数キロ先にはもしかしたら宿泊できるかもしれない寺院があるが、空腹な上服はびしょ濡れなので、食事・入浴・洗濯ができるところへ行きたい。結局先へ進むしかなかった。今更レインウェアを着ても濡れたものを増やすだけなので、シャツ一枚とジーパンのままで歩く。

雨の中トボトボ歩き続ける

雨は弱くなったり強くなったり不安定な状態が続き、やがて土砂降りに近い強雨と強風になり横殴りの雨に。さすがに歩くのが厳しくなり、草地にポツンと佇む小屋の軒下に避難する。全身ずぶ濡れで体が冷える。完全防水の靴も水に浸かったように中まで濡れてしまった。さらに撥水タイプとなっている山谷袋も本降りの雨には効かないようで、中までびっしょりで参拝用具や地図が思いっきり濡れていた。念のため持参してきた、別のリュックのレインカバーを山谷袋に掛けてクリップで留める。小屋の敷地内には何やら機械や工具などがたくさんあり、何かの作業場のよう。小屋はフェンスで囲まれているので勝手に入っては不味そうな感じなので、誰も来なければいいなぁなどと思っていたら、タイミングよく軽トラックがこちらに向かってくる。そして自分の目の前で車は止まりガテン系の人が2人出てくる。おずおずと2人に挨拶をして雨宿りさせてもらってますと言うと、ゆっくりどうぞ〜と明るく答えてくれたので一安心。2人と談話しつつ雨が弱まるのを待つが、あまり変わらない。この状態では当初の目的地である立ち寄り入浴施設まではとても行けないと判断し、数キロ先にある宿を急遽予約。時間は16:30を過ぎていたが部屋を取る事ができた。宿へ向けて雨の中を再び歩き出す。

雨の時トンネルがあると嬉しい

遍路道は国道に入り、少し長いトンネルに入る。歩道が車道より高くガードレールで仕切られているので、割と安心して歩けるトンネル。雨に濡れずに済むトンネル内を歩いている時だけ少し気が休まる。雨天時のトンネルはありがたい。しかしトンネルを抜ければまた雨。当たりまえだが。本降りの雨の中レインウェアも着ずにシャツ一枚で歩いている自分の事を、通り過ぎる車のドライバーはどう見ているのだろうかと、ふと思った。変なヤツと思われているのかもしれない。そういえば、第一番札所の霊山寺から四国参りを始めた頃は、遍路衣装に身を包んで歩く事に少し違和感を感じ恥ずかしくもあったが、ここまで来ると格好も人目も全く気にならなくなっていた。

完全に雨水に浸かった靴の中は、一歩踏み込む度にガバガバと水の動きがあり歩き辛い。相変わらずの右足首の痛みに加えて、右足の裏まで痛くなってくる。全身ずぶ濡れ、体の冷え、空腹、足の痛み…最悪な状況の中、ただ宿を目指して無我夢中で歩き続ける。何よりも空腹が一番辛く、途中自販機で炭酸ジュースを買って飲み少しでも空腹を抑える。立ち止まっていると体が余計に冷えるのですぐに歩き出す。雨で地図を出せず、あとどれくらいで宿に着くのか確認できないままひたすら歩く。右足の裏の痛みはどんどん増していき、びっこを引いて歩く。とにかく辛い、ご飯が食べたい、温かい湯に浸かりたい、この足の痛みから解放されたい…考えると自分の現状がさらに辛くなるので余計な事は考えず、ただひたすら宿に着くことだけを考え歩き続ける。

 

予約した橋本屋旅館に18:20到着。金剛杖の足先を洗わずに上がったが(玄関に洗うものが見当たらなかった)そんな事を気にしている余裕も無かった。濡れた靴と靴下を脱いで玄関の板の間に上がると、床を踏めないほどに右足の裏が痛くて驚く。そして足の裏を見てさらに驚く。右足の裏の薬指の下辺りにもの凄く大きなマメ、というか水ぶくれができていて、さらに小指にも大きな水ぶくれ。よくこんな状態で歩いて来れたなと思うほどの大きさ。これは間違いなく翌日に影響すると思われ気が重くなる。おかみさんに部屋を案内され2階に向かうが、足の裏があまりにも痛くて階段を上がるのも一苦労。案内された部屋は広く、浴衣や歯ブラシが2セットつづ用意された2人部屋。布団がすでに敷かれていた。荷物を降ろしてまずマメの水抜き。安全ピンをマメに刺して穴を開けると、透明な正に水のようなものが沢山出てくる。改めてよくこんなになるまで歩いていたなと、感心と呆れが半々。もっと早く水抜きしていればこんなに酷くならなかったかもしれない。

橋本屋旅館

案内された部屋

濡れた荷物を全部出してタオルで拭き、畳の上に並べて乾かす。白い山谷袋は、長時間濡れたジーパンと擦れ合っていたので真っ青に色移りしてしまった。納経帳はレインカバーのあるリュックに移していたので濡れる事はなかったが、山谷袋に入れていた地図は結構濡れてうねってしまった。まぁ仕方ない。この時期少しくらいの雨なら涼しくて気持ちが良いが、本降りの強い雨の中を長時間歩くと体が冷えるし荷物も濡れるので、歩き遍路にとって雨は本当に困りもの。夕方から雨と足の痛みでかなり苦労させられたが、この日の歩行距離は約37.3kmで1日の最高歩行距離を更新。

山谷袋にジーパンの色が移る

入浴して濡れた衣類を洗濯機にかけ、それから自室で夕食。ちょっと豪華な海鮮料理が出され、宿泊料金が少し気になる。これまでに3回宿を利用しているが、予約する時に宿泊料を一度も聞いていなかった事に気付く。毎回当日午後に予約しているので、宿が取れるか取れないかが重要で料金を気にしている余裕は無かった。

襖の隣の部屋に宿泊している、声から察して老夫婦と思われる男性の方がかなり酔っているらしく、ずっと大きな声を出していてた。普段だったら間違いなく気になってイライラしているところだが、ここまで野宿やきつい遍路道を経験して多くの不便や苦労をしてきているからか、あまり気にならず自分が寝るまでには静かになるだろうと楽観的だった。しかし宿のおかみさんが気を使って別の部屋への移動を勧めてくれたので、別の部屋へ移る。部屋の広さは半分になったが1人にはちょうどいい。荷物を整理し翌日に備え、宿に着いた時にすぐ隣の売店で買ったお菓子を食べながらテレビを見てまったり。

変更してもらった部屋

右足裏のマメは何度水抜きしても少しづつまた水が溜まり、完全に抜き切ることが出来ない。マメが痛くて足の裏を真っ直ぐ床につけて歩く事が出来ず非常に不便。これは本当に困った… 最悪翌日は巡拝せず宿に連泊する事も考えた。翌日は1日中雨のようだし。しかしやはり1日中宿に泊まっているのは甘えに感じる。足が痛かろうが雨に降られようがとにかく歩かねばならない。それが歩き遍路というものだ。色々と迷いや不安を抱えたまま23:30就寝。