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2012年4月22日(日)  巡拝7日目  雨

参拝札所:23番

歩行距離:25.2km

合計距離:183.0km

出費額:¥10,191

合計額:¥39,455

 

夜中に一度目が覚め、右足裏を見るとやはりマメにまた水が溜まっている。安全ピンで穴を開け水抜きして再び寝る。そして今度は5:30頃に外からの声で起こされる。何処そこで暴風波浪警報が発令され…と拡声器から流れる町内放送。どうやら四国参りを始めて以来最悪の天気になりそうだと思いながらまた眠りにつき、次は携帯電話の目覚ましで6:20起床。また水抜きをするが、昨夜から痛みはほとんど引いておらず歩くとかなり痛い。これは厳しい… 1階に下りて居間で朝食を食べる。食事中に他の宿泊客が3人ほどやってきて、少し談話をしながら食事を済ませ、レインウェアを着て7:40に宿を出る。

橋本屋旅館の朝食

 

宿を出た時は雨はさほど降っていなかったが、強い風が出ていて遍路笠が煽られ、片手で抑えながら歩く。右足裏の痛みは靴とソックスのクッション性で、宿で素足でいた時よりは僅かに痛みが抑えられている気もするが、それでもやはりかなり痛く少しびっこを引くような感じの歩き方になってしまう。相変わらず右足首後ろも痛い。右足にマメが出来てしまったのは、足首の痛みを庇いながらずっと歩いていたのが原因だろうか。そして右足裏の痛みを庇って今度は左足まで痛くなるのではないかと不安になる。

海沿いの断崖の上を通る道に出ると、吹き飛ばされそうな程のもの凄い強風と強雨に思わず立ち止まる。眼下には大シケの海。荒波が岩壁に打ちつけもの凄い水しぶきを上げている。今までいろんな経験をしてきているのでちょっとやそっとの事では驚きもしないし怖気づく事も無いが、この時は本当に危険と恐怖を感じた。さすがにこの天候の中こんな所を歩く遍路はいないのではないかとも思った。しかし何が何でも毎日休まず歩くと決めたのだから、よほどの事でもない限り足を止めるわけにはいかない。笠が飛ばされないよう手でしっかり押さえながら、海岸沿いの断崖の上を歩いていく。

強風と横殴りの雨に打たれながら海沿いを歩く

荒天で海は大シケ

激しい風雨に晒されながらもひたすら歩き続ける。途中軒下で山谷袋の状態を確認すると、レインカバーで包んでいたにも関らず中までびしょ濡れになっていた。旅の記録をつけているメモ帳も濡れていたが、耐水ペーパーを選んで購入していたので、ボールペンで書き込んだ文字は滲んでおらずこの先も使用可能。しかし遍路地図はかなり酷い状態に。遍路地図も耐水ペーパー仕様にすればいいのにと思う

 

第二十三番札所薬王寺に着いたのは11:20。宿から約10kmの道のりを風雨と足の痛みに耐え歩き続け何とか辿り着いた。途中から雨風は少し弱まり、それよりも足の痛みに耐えながら歩く事が辛かった。宿を出てから薬王寺に着くまでの間に一度も歩き遍路の姿を見ることは無かった。やはり天気があまりにも悪い時は歩き遍路は外に出ないのだろうか。それでも薬王寺には雨の中参拝するお遍路さんの姿をちらほら。おそらく乗り物を利用したお遍路さん達だろう。その中でポンチョタイプのレインコートを着ているお遍路さんを見かけ、なるほどこれならリュックや山谷袋の上から被るので、荷物が濡れにくくていいなと思った。ただし風に吹かれると厄介だが。歩き遍路には雨対策、特に自分よりも荷物が濡れないようにするための対策が重要。

第二十三番札所 薬王寺(やくおうじ) 山門

薬王寺 本堂

薬王寺 大師堂

薬王寺からの眺め

とりあえず薬王寺には着いたものの、この悪天候の中何処まで進むか考え悩む。天気は最悪な上に足も痛い。しかしまだ時間は11:30と足を止めるには早い。遍路地図を見ながら悩みに悩んだ結果、薬王寺から約15km先にある宿まで頑張って歩く事にした。やはり毎日歩くと決めたのだから、雨や足の痛みくらいで歩くのを止めるわけにはいかない。宿に電話したところ部屋に空きはあった。あとは目的地へ向けてひたすら歩くだけ。

 

宿へ向けて出発する前に腹ごしらえ。薬王寺のすぐ側にある国道沿いのお好み焼き屋へ入る。着ているレインウェアも荷物もびしょ濡れで入り辛かったのだが、店員のおばさんが快く対応してくれた。席に着いてやっと落ち着くことができ、外の看板に書かれていたお得なランチメニューの唐揚げセットを注文したのだが、ランチメニューは平日のみだった… 仕方ないので唐揚げ単品とご飯味噌汁を注文。すると、ランチメニューを出せなかったお詫びにと山菜の盛り合わせをサービスしてくれた。何だか逆に申し訳ない気持ち。しかし本当にありがたい。そしてお会計の時に、お接待としてリンゴを1つくれた。温かい気持ちに触れる事ができ、頑張って歩こうという気持ちも強くなる。

山菜の盛り合わせのサービス

食事を済ませ国道55号をひたすら歩く。薬王寺から次の札所の最御崎寺までは約75km。札所間の距離としてはこれまでで最長となる。とても1日で歩ける距離ではなく、少し気が遠くなる。しかし歩かなければ着かない。歩いていればいずれ着く。とにかく歩くしかない。

雨の中国道55号をひたすら歩く

暴風警報発令…

雨の日のトンネルはありがたいと前日の記録で書いたが、それはあくまでも歩道と車道がガードレール等で分けられていて安全に歩けるトンネルの話。遍路道にあるトンネルの多くは、歩道は白線で区切られているだけの非常に狭いもので、歩行者の真横を車は容赦なく猛スピードで横切っていく。しかも雨の日は道路の端に雨水が溜まり、そこに枯葉や苔があると足元が非常に滑りやすくて危険。このようなトンネルは遍路道の中でも特に危険で気をつける必要がある。トンネルによってはお遍路が安全に渡れるよう、入口に反射材付きのたすきを入れたボックスが設置されているが、残念ながら初めて見かけたタスキボックスの中は空だった。おそらく皆が使って反対側のボックスに溜まっているのだろう。

こういうトンネルを歩くのは少々こわい

反射材が付いたタスキが用意されているトンネルがある

山の中を通る国道をひたすら歩く。バスや大型トラックが真横を通り過ぎる度に水しぶきがかかる。時々強い雨風も吹き、体は水に浸かったかのようにびしょ濡れ。濡れた体が冷たい。休憩して足を止めると余計に体温が下がって寒いので、十分に休めないまま再び歩き出す。結構辛い。歩いても歩いても、自分の先にも後にもお遍路の姿を見かけることは無い。ただ1人黙々と、淡々と、歩き続ける。

ガードレールで分けられたトンネルが一番安心できる

雨は止むことなく降り続ける

相変わらず右足首後ろと足の裏が痛い。結構痛い、いやかなり痛い。次第に精神的にも辛くなってくる。そして一向に止まない冷たい雨。そんな状態の中ただひたすら宿を目指して、少しびっこを引いて黙々と歩き続ける。これはもはや本当の苦行だ。何故自分はこんなに苦しい思いをしているのか、これは自らの意思でやっている事なのか、何のためにこんな事をしているのか、歩きながらそんな事を考えても答えなど出るはずも無く、後は何かに取り憑かれたように無我夢中で歩き続ける。とにかく歩き続ける。

 

旅館 あづま

薬王寺で予約した宿、あづまに16:00過ぎに到着。特に評判の良い遍路宿の1つなのだが、思っていた以上にずっと小さく古そうな宿だった。玄関を開けるとご主人とおかみさんが出迎えてくれた。2人が濡れたレインウェアやリュックのレインカバー、遍路笠をタオルで拭いてハンガーに掛けてくれた。建物1階は普通の食堂になっている。昼だけ食堂の営業をしているのだろうか。自分が到着した時には、食堂内に他のお遍路さんのレインウェアや遍路笠が干されていた。大人しく落ち着いた感じの主人に対し、おかみさんはとにかくよく喋りお節介を焼いてくれる。「はやく濡れたの脱ぎな、靴も、靴下も、靴下は絞ったの?えらい濡れたな、靴はこっち…」という感じで、間髪入れず次々と指示してくる。おかみさんに指示され新聞紙を靴に詰める。「それじゃダメ、もっと小さくちぎって、ぎゅっと詰めて、この靴は良すぎるから乾きにくいかもしれんな…」などとマシンガントークが続く。

部屋に案内されおかみさんがヒーターを点け、濡れたものを出して乾かしなさいと言うので、リュックと山谷袋の中の荷物を全部出して濡れたものをヒーターの前に置く。専用のレインカバーを被せていたリュックの中まで結構濡れてしまっていた。地図は完全に使用不能に…納経帳まで濡れてしまった。やはりあまり強い雨の日に無理して歩くものではないのかもしれない。濡れた荷物のチェックをしていると部屋におかみさんがやってきて今度は入浴の指示。1階の浴室に連れて行かれ、脱衣所の洗濯機の使い方やら何やらを教えられる。「若いんだから自分で出来る事は自分でしないとダメよ」と。その割には何でもやってくれる。本当に世話焼きなおかみさん。この手の宿にしては珍しく、浴衣ではなくパジャマが用意されていた。浴衣がどうも苦手な自分にはありがたい。

宿泊する部屋

濡れた荷物を乾かす

入浴後もおかみさんの世話焼きは終らない。1階の本棚にある遍路地図を取り出し、お勧めの遍路宿などを教えてくれる。おかみさん自身歩き遍路の経験があり、地図にはおかみさんお勧めの遍路宿にチェックが入っている。そして翌日の話になり、まだ宿を取っていなく宿泊するか野宿にするか考えている事を話すと、宿に泊まった方がいいよ、今宿を取ってあげるよと、おかみさんが電話で知り合いの宿を予約してくれた。もう本当に何処までも世話を焼いてくれる。

使用不能になった地図

あづまで新しい地図を購入

遍路地図が雨で酷く濡れて使用不能になってしまったが、幸いな事に宿で遍路地図の販売をしていたので購入。最後の一冊だった。おかみさんのお勧め遍路宿にチェックの入った見本地図を借りて、新しく購入した地図に書き写す。濡れてしまった地図にも事前に自分が調べた宿のチェックがあるので、濡れてくっついてしまったページを破かないように慎重に剥がして確認していく。これが本当に骨の折れる作業で疲れた。これからはこうならないよう雨の時は注意しないと。

あづまの夕食

ゆで卵とお茶のお接待

1階食堂のカウンターで他のお遍路さん2人と一緒に夕食を食べる。品数が多くなかなか豪華な食事。食事中ずっとおかみさんはカウンターの中に立ち、遍路の話や食事の世話をしてくれる。そして食後にゆで卵2個と塩の入った袋と緑茶を渡される。翌日宿を出てから食べなさいと。本当に抜かりが無い。ここまでもてなしてくれる宿はそう滅多に無いと思う。歩き遍路経験があり遍路の気持ちが分かるからこそ、ここまでのもてなしが出来るのかもしれない。あづまが遍路宿の中で特に評判のいい宿である事に納得。宿の評価基準には、部屋の広さ綺麗さ・食事・価格などいろいろあるが、歩き遍路の苦労や気持ちを十分に理解した上でもてなしてくれて、豊富な遍路知識を提供してくれる宿が最も魅力なのかもしれない。あづまは建物の外観こそ古いが部屋は綺麗だし、食事もおいしいので本当に素晴らしい宿。

昼のお接待のりんご

手作り杖カバー

食後自室に戻り、昼にお接待で頂いたりんごをかじりながらくつろいでいると、またまたおかみさんの登場。預かってもらっていた遍路杖(杖の持ち手部分のカバーの中にある厚紙が濡れてグチャグチャになってしまい、綺麗に取り除いてくれていた)を持ってきてくれた。しかもおかみさん手作りの毛糸のカバーのお接待。お遍路に黄色は縁起がいいとの事で、黄色い毛糸が多く使われている。イチゴの飾りの中には鈴が入っている。ここまでお世話をしてもらえるなんて、本当に感慨無量。何だか使って汚してしまうのが勿体無い。

外の雨は夜遅くから土砂降りに。宿でゆっくり体を休められることがありがたく感じる。それにしても、足の痛みに耐え1日雨に降られながらも25km歩いた自分に感心してしまう。翌日の足の状態と天気を気にしながら24:00就寝。