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2012年5月11日(金)  巡拝26日目  曇のち晴

参拝札所:60・61・62・63・64番

歩行距離:45.2km

合計距離:922.7km

出費額:¥2,648

合計額:¥150,151

 

月が明るい4:30

怪しい空模様

4:00起床。一応屋内で寝ることができたが、寝袋なのでイマイチ熟睡できた実感が無い。荷物をまとめて部屋の片付けをして4:30出発。まだ月明かりのある早朝の気温は低く寒い。通夜堂に一緒に宿泊したお遍路さんと歩く。5:00を過ぎると明るくなり始めるが、向かう先の空一面にはどんよりとした灰色の雲が広がっている。この先山越えをしなければいけないので、今にも雨が降り出しそうな空模様に先行き不安になる。

お接待

車も人通りも少ない県道を淡々と歩いていると、前方からこちらに走ってきた軽トラが目の前で停まり、運転していたおじさんから缶コーヒーのお接待。仕事場に着いてから飲むつもりで買ったのだろうか、缶は温かい。お接待を受けて心も温かくなる。お接待を受ける度に思う、お接待という文化の素晴らしさと、今尚この風習が続いている事が奇跡的な事なのではないかと。

朝ごはん

出発から2人で2時間歩き続け、6:30にコンビニで弁当を買って店外のベンチで朝食。この先から山道になっていて当分店は無いので、ここで食事や飲食物の補給をしておかないといけない。歩き遍路は遍路地図でそういう事も考えながら進んでいかないと、いざ空腹になっても食べ物を得ることができず辛い思いをする羽目になる、という事をここまでの間に身をもって実感させられた。同行のベテランお遍路さんは、ビールでも飲んでもう少し休憩していくとの事なので、コンビニから先は1人で歩く。次の札所は山の上にあり、遍路道は目の前に広がる山へ向かって続く。あの山を登らないといけないのか…と少し気が重くなる。道は進むにつれ勾配がきつくなっていき体力消耗。相変わらず雨が降り出しそうな空模様で日は射さず涼しいが、それでもせっせと山道を歩いていると汗が出てくる。

あの山を登らなければならない

渓谷沿いの道を進む

 

コンビニから1時間ほど歩いた所で休憩所があったので小休憩。そこから道は未舗装路に。未舗装路の入口には「警告 悪路通行注意」と書かれた案内板が。遍路道でこんな注意書きを目にするのは初めて。転落・転倒・スリップ・落石・土砂崩れ・倒木等の危険…って、危険地帯じゃないか。。。遍路地図には、雨天の際は水量が急増し危険大と書かれてある。とりあえず雨が降っていなくてよかったが、この山道を歩いている最中に雨が降り出さないことを願い足を踏み入れる。

こんな警告は初めてだ

警告文は少し大げさに書かれているのではないかとも思ったが、道に入って直ぐに警告文通りの危険な道だと思い知らされる。道は険しく足場は悪く雨の日は明らかに危険。しかも土砂崩れの跡があり岩や倒木が道を半壊させている場所がある。これは雨の日に歩くのは本当に命がけだ… しかし別の道から迂回するとなるとかなりの遠回りになってしまうので、自分だったら多少雨が降って増水していても無理して歩いていたかもしれない。危ない危ない、本当に雨に降られなくてよかった。

増水したら危険そう

土砂と倒木で道が半壊状態

険しく足場の悪い道

札所まで続く未舗装の山道は2kmほどだが、とにかく険しくてしんどい。それでも札所まで休憩無しで登ろうと頑張って歩き、もうそろそろ札所に着く頃かなと思ったところで、あと0.9kmと書かれた案内板を目にし、まだ半分しか進んでいない事を知り精神的ダメージ大。疲れが一気に増して休憩。それからは一層足取りが重くなり、後から歩いてきたお遍路さん数人に抜かれる。まだまだ自分は体力的にも精神的にも未熟者なのだと思い知らされる。

足元も頭上も注意

 

険しい山道を1時間半弱歩いてようやく山門に辿り着く。本当にクタクタのフラフラ。山門をくぐって第六十番札所横峰寺の境内に入ると、紫色の花が満開に咲いていた。シャクナゲという花らしい。三脚を立てて一眼レフカメラで写真を撮っている人が何人もいる。お遍路以外の観光客が多くとても賑わっている。もちろん観光客は険しい遍路道など通らずに、舗装された道路から車に乗って来ている。こういう状況に四国参りを始めた頃だったら、歩きで苦労して巡拝している自分が損な気分になったりもしたが、巡拝後半にもなるといいかげん慣れ、何よりも歩いて巡拝している自分に少し誇りと自信を持てるようになったので、そんな事で損得感情が出なくなった。四国参りで少しは心も成長しているだろうか。

第六十番札所 横峰寺(よこみねじ) 山門

横峰寺のシャクナゲ

横峰寺のシャクナゲ

もの凄く疲れたのでベンチに腰かけ少し休憩してから参拝。本堂は修復工事中だった。それにしても境内は人が多い。団体の観光客が目立ち、四国霊場の雰囲気は薄くメジャーな観光スポット的な感じ。

横峰寺 本堂

横峰寺 大師堂

 

横峰寺から先の遍路道も未舗装の山道。今度は下りが続く。疲れた足には下りの傾斜が足先に負担がかかりしんどい。お腹が空いてペースが上がらず、途中で岩場に腰かけ休憩。菓子パンとウィダーインゼリーを食べて空腹を紛らわす。休憩している少しの間に複数のお遍路さんが通り過ぎる。いつも以上に歩き遍路と多く会い、そして抜かれていく。

雨が降りそうだった空模様はいつの間にか晴れて、青空と陽射しが出て景色が明るくなる。横峰寺に着いた時に晴れていてくれれば、シャクナゲを一層鮮やかに見ることができたと思われ、その点ではもう少し遅く出発していればよかったかなと。それにしても下っても下ってもまだまだ続く山道にうんざり。途中周囲の木々が開けて山の外の風景が見え、まだだいぶ高いとことにいると分かり気が遠くなる。

まだまだ下界が遠い

ひたすら山道を下る

ひたすら山道を下り続け、あと少しで下山というところで六十一番札所の奥の院に入り、白滝という滝行するための小さな滝に辿り着く。三体の像に囲まれ神々しい雰囲気。滝の手前には脱衣小屋もある。なるほどこういうところで修行をするのか。滝行には少し関心がある(と言っても宗教的にではなく単純に一度体験してみたいだけ)。奥の院を出ると長らく木々に囲まれた山道を抜け、眺望のよい墓地に出る。10:30に横峰寺を出発してから山道をひたすら歩いて13:00にやっと下山。快晴になって日差しが強く暑い。

白滝

やっと下山

 

第六十一番札所 香園寺(こうおんじ) 大聖堂

大聖堂一階正面の本堂拝所

第六十一番札所香園寺に13:20到着。横道から境内に入ったので山門の写真を撮り忘れてしまった。境内を奥へ進むと正面に巨大な鉄骨造の建物。これは一体何の建物?本堂と大師堂は何処?とキョロキョロしてしまったが、大聖堂と呼ばれるこの鉄骨造の建物が本堂と大師堂を兼ねたものだった。それを知って一瞬呆然…四国八十八箇所の寺としてはあまりにもミスマッチと思うのは自分だけだろうか。

大聖堂二階の大師堂

納経所

大聖堂一階正面にある本堂拝所で参拝をし、大聖堂二階の大師堂に入ってさらに驚き。大師堂は広いホールになっていて、まるで公会堂のようにイスがズラリと設置されている。そして絢爛豪華きらびやかな祭壇。他の寺との財力の差を見せ付けているようでイヤミっぽく見えてしまうのは自分だけだろうか。大聖堂の隣にある納経所も鉄骨造の大きな建物で、窓口には物販品がズラッと並べられ、中では若い坊主数人が忙しく札束を数えたりしている。まるで人気の観光スポットの土産屋のような光景。なんだかなぁ… とにかく香園寺はこれまでで一番札所離れした寺だった。

 

香園寺から第六十二番札所の宝寿寺までは1.3kmと近く、あっという間に到着。山門に木造の門はなく、石碑が建っているだけの質素なもの。本堂と大師堂は見慣れた木造のお堂。香園寺の後なので妙に落ち着いた気持ちになる。やっぱり四国遍路の札所はこうでないと。

第六十二番札所 宝寿寺(ほうじゅじ) 山門

宝寿寺 本堂

宝寿寺 大師堂

納経所の窓口には納経時間についての張り紙が。一般的に札所の納経時間は7:00〜17:00なのだが、宝寿寺は8:00〜17:00で12:00〜13:00まで昼休みと、朝1時間遅い上に昼休みが1時間ある。「当寺は霊場会とは無関係です」との事だが、通常の納経時間に従わない関係で霊場会に入っていないのだろうか。遍路地図には宝寿寺の納経時間についての記載が無いので知らなかった。たまたま宝寿寺に着いたのが14:00だったので問題なかったが、知らずに朝一に納経してもらおうと7:00前に来てしまったり、昼休み中に着いてしまったら結構ショック。常に時間と遍路地図を照らしながら、何処で打ち止めして何処まで進むかを考えて巡拝している歩き遍路にとっては、このような想定外の事で足止めを食らうのは痛い。

 

宝寿寺から第六十三番札所の吉祥寺も1.4kmとすぐ側。単に距離が近いだけだと分かっていても、とんとん拍子に複数の札所を参拝していると凄く進んでいる気分になる。そして気付けば八十八ある札所の3分の2以上を参拝していて、第一番札所からの歩行距離は約900kmにのぼり、全歩行距離の約4分の3ほど歩いていた。四国巡礼を始めてからしばらくの間は、四国八十八箇所12000kmの道のりがとてつもなく長く厳しい道のりのように思えたが、あっという間に終わりが近づいてきた。

第六十三番札所 吉祥寺(きっしょうじ) 山門

吉祥寺 本堂

吉祥寺 大師堂

吉祥寺では複数の遍路ツアーの到着と重なってしまい、次から次へと境内へ流れてくる団体で大賑わいになってしまい、静かに納経ができない一般のお遍路さん達は苦笑い。納経所では数人の添乗員が大量の納経帳をそこら中に積み重ねて納経待ちをしている。完全に納経所を占拠してしまっていて、一般のお遍路さんが入ってきても知らんぷりで納経順を譲ることも無く、全くマナーが無い。さすがにこれにはちょっとムッとなる。途中で納経所の人が単独のお遍路さん達に声を掛け、先に納経を済ませてもらうことができたが… マナーの無い遍路ツアーが多いのは本当に困りもの

山積みされる納経帳

納経帳を受け取る時にお菓子をいただく。考えてみれば納経所でお接待のように何かをいただくというのはこれが初めてな気がする。歩き遍路にとって、小腹が減った時に食べるのにちょうどいいお菓子や飲み物のお接待は本当にありがたいもの。

納経所でお菓子をいただく

 

吉祥寺から第六十四番札所までの道のりも3.2kmと近く、1時間弱で行ける距離なので気持ちも足取りも軽い。5月5日の子供の日を過ぎてもまだあちこちで見かける大きな鯉のぼり。考えてみれば、地元である都心の住宅密集地では、大きくて立派な鯉のぼりが空を泳いでいる姿を一度も見たことが無い気がする。

 

第六十四番札所の前神寺に15:40到着。予定より1時間も早く着いてしまったが、次の札所までは約45kmもあるので参拝はここで打ち止め。本堂はかなり真新しく、左右に柱廊のような屋根が延びた珍しい造り。サクッと参拝を済ませ納経所前のベンチでひと休み。昼食を食べていなく空腹だったので、吉祥寺でいただいたお菓子と自販機で買った炭酸ジュースでとりあえず空腹をごまかす。体が資本の歩き遍路をしている割にはこんな感じの不摂生な栄養摂取が多いが、これもきっと修行のひとつなんだ。好きな時に好きな物を好きなだけ食べられる事のありがたみを知るという修行になる、多分。

第六十四番札所 前神寺(まえがみじ) 山門

前神寺 本堂

前神寺 大師堂

 

湯之谷温泉

前神寺のすぐ側に立ち寄り入浴できる温泉旅館があるので入浴。久しぶりに体重計に乗ってみると、巡拝二日目に量った時より3.6kg減の60.4kg。そういえばズボンのベルトが随分緩くなった。それでも毎日10kgの荷物を背負って3、40km歩いている割には大して減っていないなというのが感想。11年前に車中泊で日本一周した時は、同じ26日目で5kgも減っていた。車と歩きでは圧倒的に歩きの方がカロリー消費が多いはずなのだが。年齢と共に体重が減り難くなってきているのだろうか。

 

昨日泊まった善根宿で一緒だったお遍路さんが勧めてくれた善根宿が約12km先にあるので、もうひと頑張りする事に。入浴で増した空腹を満たすために、飯屋を探しながら夕暮れ時の国道を歩く。体重が減ってきてるし力も付けたいのでガッツリ肉を食べたい、安く。となるとやっぱりファミレスのジョイフルだなと思い、ジョイフル出てこい、ジョイフル出てこいと唱えていたら本当にジョイフルが出てきたので入店。リブペッパーステーキを注文。

夕食を済ませ再び国道を歩く。19:00を過ぎると空は暗くなり、街灯の少ない道は足元が暗い。歩道の整備された国道でよかった。途中便意をもよおしてきたところでタイミング良くコンビニがあったのでトイレへ。特に腹痛などは無かったのだが腹を下していた。水分の摂り過ぎだろうか。後で何もない場所でまたもよおしたら困るので、暫くコンビニのトイレに篭る…

 

目的地の善根宿に着いたのは21:30過ぎ。国道から一歩入った所にあり暗い事もあって道が分からず、国道にあるコンビニで道を尋ね無事たどり着く。萩生庵という善根宿でどうやら一般家屋のよう。家主に挨拶しようと思ったが何処にいるのか分からず、建物内は静まりかえっていて寝ているかもしれないので、うろうろするのは止めて遍路用の宿泊部屋へ入る。部屋は消灯していて窓も無いため暗かったが、先客が一人布団に包まって寝ていたので、電気は点けず携帯電話のディスプレイの明かりを頼りに静かに布団を敷き、荷物整理と日記や収支を書いているメモ帳をまとめるのは翌朝にまわしさっさと寝る。

萩生庵