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2012年5月14日(月)  巡拝29日目  晴のち曇のち雨

参拝札所:68・69・70・71・72・73・74・75・76番

歩行距離:30.0km

合計距離:1,025.2km

出費額:¥5,213

合計額:¥163,328

 

寝心地の悪さとスズメの鳴き声で5:00に目が覚める。体が休まった気が全然しない、むしろ余計に疲れた気分。もっと寝ていたくても安眠などできないので二度寝は諦める。荷造りをしてから昨日分のメモ書き。いつもは寝る前に日記や出費額・距離の計算などをしているが、昨日は何だか面倒で寝てしまった。そんなことをしているうちに6:00になり出発。外はまだ肌寒い。

銭形展望台からの眺め

銭形砂絵

道の駅から札所までの500mほどの道のりの間に「銭展望台があるので立ち寄る。展望台からは薄水色の海と朝日に照らされた砂浜、そして木々に囲まれた「銭形砂絵」という巨大な砂絵が正面に見える。朝日に照らされた砂絵は影が薄く、銭形の模様がはっきりと見えないのが残念。楕円形で縦幅が122mもあるらしいが、展望台からの眺めだと大きさを比較するものがないので、実際どれだけ大きいのか感覚が掴めない。

 

第六十八番札所と第六十九番札所は同じ境内にあり、境内正面入り口になっている仁王門は二つの札所の山門を兼ねているという、珍しい札所。どうしてここだけ同じ境内に二つの札所があるのだろう。境内に6:30に着いてしまったので、納経所が開く前に二つの札所の参拝を先に済ませる。本堂と大師堂はそれぞれ別々にある。

第六十八番、六十九番札所 山門

第六十八番札所 神恵院(じんねいん) 本堂外観

神恵院 本堂内部

第六十八番札所神恵院の本堂は、とても霊場の建物とは思えないコンクリート打ちっ放しのモダンな外観。建物内部へ続く正面の階段を上っていくと、そこに本当の本堂が建っている。何故こんな造りにしたのだろうか。それと、四国霊場全八十八箇所の札所のうち、第六十八番札所だけ札所の名称が「〜院」となっている。「寺」と「院」の違いはなんだろう。まぁ細かいことは気にしない。

神恵院 大師堂

第六十九番札所観音寺もちょっと珍しい。本堂と大師堂が朱色に塗られている。朱色の山門はこれまでに何度か目にしているが、本堂・大師堂が朱色なのは初めてな気がする。両札所の参拝を終え納経所前のベンチに腰掛けパンを食べていると、7:00少し前に納経所が開いたので一番乗りで納経してもらう。納経所は一つで神恵院・観音寺を兼ねていて、両札所の墨書きと御朱印をもらい、御本尊御影も二枚受け取る。納経料は勿論二箇所分を支払う。

第六十九番札所 観音寺(かんおんじ) 本堂

観音寺 大師堂

 

独特なかたちをした山

川沿いの土手の上を歩く

次の札所までは5kmと近い。川沿いの道路を歩き、途中から土手の上の細道を歩く。進行方向の先に山々が連なる風景があり、その中に独特な形をした山がある。何となく仰向けに寝ている女性の体のように見える。形からして何らかの霊場になっているのかなと思い、遍路地図を見てみるが分からなかった。ちょっと気になるがあまり気にしない。そんな感じで土手を歩いていると、前方から歩いてきたおばあさんから、あめ玉やお煎餅などが入った小袋のお接待を受ける。小袋の沢山入った大きな袋を持っているので、すれ違うお遍路さん達に配っているのだろう。お菓子の入った小袋に小さなメモ書きも入っていたので出してみると、人生の格言が書かれていた。

お菓子の袋に入っていた

 

第七十番札所本山寺に8:30到着。とうとう七十番台まで来てしまった。遍路地図を見る限り、第八十八番札所までの道のりは恐らく残り100数十キロ。巡礼のスタート地点だった第一番札所霊山寺までは、直線距離で100kmを切っている。とてつもなく長い道のりのはずだった四国遍路がもうすぐ終わる。そう思うと急に不安な気持ちがこみ上げてくる。四国遍路という非日常の日々が、辛くも充実した日々がもうすぐ終わる。四国遍路を終えた後の自分はどうなるのか、どう行動してゆけば良いのか、四国遍路の経験は自分を少なからずとも成長させたのか、いろんな不安や疑問が頭の中を回り始めた。

第七十番札所 本山寺(もとやまじ) 山門

本山寺 本堂

本山寺 大師堂

本山寺 五重塔

そもそも四国遍路に興味を持ったのは、四国を車中泊で旅行している時に白衣姿のお遍路さんが歩いているのを何度か見掛け、お遍路さんと話を交わした事もあり、歩いて四国一周するという事に関心を持ったのがきっかけ。あくまでも単純に「歩き旅」として興味を持っただけで、宗教的な関心は全く無く、お接待の知識も無く、さまざまな事情を抱えて四国遍路をしている人が多くいることも知らなかった。歩きで四国をまわる旅をしてみたい、ついでに自分を鍛える精神修行にしようと。ただそれだけだった。しかし実際には多くの苦労や不便を身に染みるほど経験し、多くの人との出会いの中から多くを学び、親切や無償の施しを受け、多くの人がいろいろなものを背負って生きている事を知り、もはやただの歩き旅でも単なる精神修行でもなくなっていた。非常に貴重で有意義で価値のある時間を過ごしてきた。それだけに、月日と共にそれらの経験や記憶が風化してしまわないようにしたい。

 

四国のみちを歩く

平坦な道が続く

本山寺から11km先の札所へ向けて黙々と歩く。遍路道は舗装された平坦な道で歩きやすいが、空腹でペースが上がらない。何処か手ごろな飯屋は無いかと探しながら歩き、もう本当に空腹の限界というところでうどん屋を見つけ入店。腹いっぱい食べたかったのでうどん2玉にネギたっぷり、玉子とゲソをトッピング。おいしいっ、空腹は最高のスパイス。遍路にとってはこれで十分贅沢。好きなだけ食べられる満足感と空腹が満たされる充足感を、ここまで深く実感することは普段の生活ではなかなか無い。

まだまだ続く道

いつの間にか薄雲に覆われた空

朝は雲ひとつ無い快晴だったが、いつの間にか薄雲が広がり青空でなくなっていた。日中の強い日差しを浴びずに済むので曇りのほうが歩きやすい…はずなのだが、うどんを食べてから足がやたらと重くてしんどい。少し食べ過ぎただろうか、だとしても普通ここまでしんどくはならない。いや、しんどいというよりやる気が出ない。平坦な道が続き山越えも無く楽な道のりなのだが、先へ進もうとする気力が湧かない。2日前と同じような症状。

札所のすぐ手前まで来たところで上り坂になり完全に失速。道路脇に腰掛け休憩。とにかく前に進まねばと思うのだが、腰を上げることができない。精神力が萎えてしまって気力が出ない。少し頭痛もする。立ち上がれずに座っていると、急激な眠気に襲われウトウト。明らかに寝不足。もうその場に寝転がって眠ってしまいたい気分。もう本当に一歩も歩きたくない…

 

第七十一番札所 弥谷寺(いやだにじ) 山門

山門から続く長い階段

まだまだ続く階段

非常に非常に重い足取りで、予定より30分以上遅れの12:20に第七十一番札所弥谷寺の山門に到着。やっと着いた…と思ったら、山門から長い石段が続く。もう勘弁して…でもこの石段さえ上れば本堂と大師堂がある、頑張ろうっ!と、萎えた気持ちに鞭打って260段の石段を上り切る。本堂は何処?と思ったら、さらに108段の真っ直ぐに続く階段。まだあるのっ!と、うんざりしながらも上るしかないので重い足を何とか動かし、そしてやっと大師堂。しかし本堂はさらに170段先。もう負けそう…

弥谷寺からの眺め

弥谷寺 本堂

難所とも言える弥谷寺の長い長い階段にはもうひとつ問題があった。とにかく毛虫が多い。階段の足元は毛虫だらけ、上を見上げれば木々からぶら下がる沢山の毛虫。たまに上から落ちてくる。万が一自分の身に毛虫が落ちてきたとしても、遍路笠を被っているので頭上や顔面に直撃することは免れるだろうが、体やカバンの上にでも落ちてきたらたまったもんじゃない。そんな感じで毛虫を気にしつつ計538段の階段を上ってやっと本堂に到着。

弥谷寺 大師堂

大師堂内

参拝を済ませ、階段を一番下まで下りたところにある茶屋のベンチに腰掛け休憩。相変わらずどうしようもないくらいに無気力でぐったりしていると、「これお食べ」と茶屋の店主のおじいさんから大福のお接待。お接待とは言え売り物をただでもらうのは少し申し訳ない気分だ。店主と少しの間談話し励まされ、だいぶ気力が回復して元気が出る。人の温かい言葉はこんなにも心の疲れに効くものなのだと実感すると同時に、歩き遍路は本当に地元の人達に支えられているのだと改めて思う。

茶屋で大福のお接待

 

すっかり足取りは軽くなり、午前中の遅れを取り戻すようにテキパキと足を動かしていく。次の札所までは3.5kmなので気分的も楽。竹林の中、沼畔の獣道のような細道、木々に囲まれた静かな道を進んでいく。

 

弥谷寺の茶屋から40分ほどで第七十二番札所の曼荼羅寺に到着。テキパキ参拝を済ませ先へ急ぐ。別に四国遍路は進むのが早ければいいというものではない。自分の場合精神修行も兼ね、疲れていても毎日しっかり歩く事が目標のひとつにいつの間にかなっていた。前日の夜もしくは朝歩き始める前にその日の目標地点を決めて、可能な限り計画通りに進んでいく。疲れていても足が痛くても歩く気力が無くても、自分に甘えずとにかく毎日しっかり歩く。これが結構大変。

第七十二番札所 曼荼羅寺(まんだらじ) 山門

曼荼羅寺 本堂

曼荼羅寺 大師堂

 

第七十三番札所 出釈迦寺(しゅっしゃかじ) 山門

出釈迦寺 本堂

曼荼羅寺から600mほど歩いて第七十三番札所出釈迦寺に到着。七十一番の弥谷寺から七十七番までは狭い範囲に札所が集中していて、テンポよく次々と札所を巡拝できるので気分も上がる。午前中の沈んだ精神状態が嘘のよう。

出釈迦寺 大師堂

出釈迦寺境内からの眺め

 

黄金色の稲穂の風景を歩く!

トラクターの後ろを歩く!

 

出釈迦寺から2km歩いて第七十四番札所甲山寺に到着。ここでこの日の札所参拝数は7箇所目。一日の参拝数が最も多かった巡拝2日目と並んだ。別に一日に沢山の札所を参拝すればいいという訳ではないが、ここまで来ると記録をつくってみたくなる。次の札所も1.6km先と直ぐ。休憩せずに次へ向かう。

第七十四番札所 甲山寺(こうやまじ) 山門

甲山寺 本堂

甲山寺 大師堂

 

第七十五番札所 善通寺(ぜんつうじ) 中門

善通寺 鐘楼と五重塔

第七十五番札所善通寺は、遍路道を挟んで「西院」と「東院」で境内が分かれている。どちらに何があるのか分からずとりあえず東院に入ると、中門という門があるがどうやら山門ではない。中門をくぐった先には立派な鐘楼と五重塔が建っている。広い境内を少し歩いて回り、案内図があったので本堂の位置を確認してみると、東院の中心にある「金堂」という建物が本堂らしい。案内図を見る限り、西院と東院合わせて門が6つ、〜院・〜堂など建物は15以上ある。善通寺は弘法大師の生誕の地で、真言宗善通寺派の総本山という事で規模が大きい

広く建物が多い善通寺

善通寺 本堂(金堂)

善通寺 山門(仁王門)

山門から大師堂まで続く回廊

善通寺 大師堂(御影堂)

案内図を見ても大師堂が分からないので、本堂の前にある売店で尋ね、西院にある「御影堂」という建物だと判明。山門は西院の正面入り口の仁王門。本来の参拝順序はまず山門をくぐって次に本堂の参拝なので、これだと西院の山門をくぐってまたくぐって西院を出て、東院の本堂を参拝したらまた西院の山門をくぐって大師堂に行かなければならない。ちょっとややこしい。それとも総本山善通寺では特別な参拝順序でもあるのだろうか。

 

善通寺東院にある「赤門」から外に出ると、「赤門筋」という商店街が続いているが、まだ16:00前だというのに人の姿が全くと言っていいほど無い。少し妙な光景。過疎化や近隣の大型ショッピングセンターなどの影響だろうか。これまで何度かこのような街並みを目にしている。四国は過疎化と高齢化が問題になっているようで、それらの影響で四国遍路の文化も次第に衰退してしまうのだろうかと、ちょっと心配になる。

赤門筋商店街

第七十一番札所弥谷寺の茶屋で気力回復し、七十二、七十三、七十四、七十五と順調に札所をまわり、午前中の時点では17:00までにたどり着くのはまず無理だと思っていた七十六番札所に間に合いそうなので、だいぶ疲れているが休憩せずに気合で歩く。16:00過ぎからポツポツと雨が降り出す。

頭上注意な遍路道

七十六番札所へ向かう

 

第七十六番札所金倉寺に16:30到着。やはり最後まで諦めてはいけない。午前中は本当にしんどくてどうなるかと思ったが、何とか予定通り金倉寺まで参拝を済ませることができた。この日の札所参拝数は9箇所で、33日間の四国巡礼の中で1日にまわった札所の最多記録となった。と言っても、歩行距離は30kmとそれほど長くはなく、たまたま札所が集中しているところを歩いただけの話。それにしても、ここまで来れたのは弥谷寺の茶屋の店主のおかげだと思う。店主の励ましのおかげで気力回復しここまで歩くことができた。言葉の力というのは本当に凄い。

第七十六番札所 金倉寺(こんぞうじ) 山門

金倉寺 本堂

金倉寺 大師堂

金倉寺での参拝中に雨は本降りに。雨だし昨晩は頑張って野宿したので今日は布団で寝たい!ということで、あらかじめ目をつけていた金倉寺側のゲストハウスに電話をしてみるが、繋がらない。外出でもしているのだろうか、それとも休みなのだろうか。雨は一時土砂降りになり納経所の中で雨宿りさせてもらい、少し時間が経ってから再度ゲストハウスに電話してみるがやはり繋がらない。雨は弱まりいつまでも納経所で雨宿りしていても仕方ないので、金倉寺から歩いて数分の場所にあるゲストハウスへ直接向かう。

 

ゲストハウスにたどり着いたはいいが、扉は閉まっていて中に人の気配も無い。やはり休みなのかも知れないということで、仕方なく次の札所の少し手前、3kmほど先のビジネスホテルに電話してみると、「ただ今近くにいません…」と言うような録音。ついてない。とりあえずゲストハウスの前にあるJR線の無人駅で雨宿りしつつ、ゲストハウスとビジネスホテルの両方に何度か電話してみるがどちらも出ず。困った…最悪この駅で野宿することになるかもしれないと途方に暮れる。

無人駅のホームで雨宿り

駅のホームのベンチにじっと座っていると、駅前の商店から出てきたおばさんに声を掛けられる。ゲストハウスの事を尋ねるといつも管理人が来ているらしく、「何処かに出てるかもしれんから少し待ってれば帰ってくるかも」との事。とりあえずもう暫く待つことにして、空腹なので近くに食事ができる店はないか尋ねると、うどん屋があるくらいだけど時間的に終わっているだろうとの事。困った…と、「うちは本当はうどんの販売はしていないけど特別に作ってあげるよ」と言うので、お言葉に甘えて駅前の商店へ。商店の作業場でうどんをご馳走になり、再度ゲストハウスに電話するとやっと繋がり、18:30までに戻るとの事で一安心。そして30分ほど商店で休憩していると管理人さんがやって来た。

管理人さんは若い女性で明るくよく喋る人。ドミトリー式のゲストハウスで外観はプレハブのような簡素なつくりだが、中はフローリングの小奇麗な部屋になっていて女性でも安心して宿泊できる宿。トイレと浴室も綺麗。女性管理人ならではの宿という感じ。これで2500円は安い。たまたま他に宿泊客がいなかったので、二段ベッドがふたつ置かれた部屋を独り占め。荷物の整理をしてシャワーを浴びようとしたところに、管理人さんの友人の男女2人がゲストハウスを訪れ、4人で少し談話してからシャワーを浴びる。ゲストハウスに宿泊客用の洗濯機は無く、近くにコインランドリーがあると言うので小雨の中を歩いてコインランドリーへ。ドラム式の洗濯乾燥機がズラリと並んでいて、一番小さい機種でも洗濯だけで500円、高いなぁ。乾燥は10分ごとに100円。ケチって乾燥は20分にしたが、業務用だけあって結構乾いた。考えてみればコインランドリーを利用するのは人生でこれが初めてかもしれない。

ゲストハウス ミカサスカサ

宿泊する部屋

ゲストハウスに戻ったのは21:00。管理人さんの友人2人がまだいて楽しく談話していたので、自分も混ぜてもらう。皆年齢が近く気さくに話が出来て盛り上がる。四国での生活の話やお遍路の話など、他人の地元の話を聞くのは面白い。四国の人はケチで自分の最低限の事以外にお金をあまり使わないとか、買い物の時はよく値切るとか。自分が四国遍路をしていて、運転の荒い車が多いと感じた事を言うと、実際に四国は車の運転が荒い人が多いらしく、全国的に見ても死亡事故が多いとの事。歩き遍路にとってこれは本当に何とかして欲しいところ。

23:00頃まで4人で喋り続け、友人2人が帰ってからも管理人さんから遍路の情報や他の宿の情報を聞いたりネットで調べたり。第七十五番札所善通寺から7、8kmの場所に「金比羅山(こんぴらさん)」という山があり、有名な神社があり立ち寄るお遍路さんが多いと聞いたが、785段もの石段を登らなければならないのでヤメ。多くのお遍路が立ち寄っているというのは気になるが、人は人、自分は自分。自分は行かない。要はもう必要以上に上り道を歩きたくないだけ。管理人さんと話し込んでいたら25:00近くになってしまい、翌朝は少し早起きして出るつもりなのでベッドに入る。

柔らかく暖かい布団で寝られる喜び