トップページ

六度目の登山 2010年8月5日〜8月6日

7月の頭、本屋で何となく手に取ったトレッキング雑誌を覗いてみると、富士登山について書かれた記事が目に入り、何となく富士山に登りたい気持ちになる。2001年の初登山から2009年の五度目の登山までは、偶然にも1年置きの奇数年に富士登山をして来たので、流れ的に今年は「登らない年」だったのだが、その奇数年登山の法則を破って登ると決める。

次に四箇所ある五合目の何処から登ろうかと考えた時、これも偶然にも初登山が四大登山口で最も標高が高い富士宮口(2400m)、二度目〜四度目が二番目に標高が高い河口湖口(2305m)、五度目が三番目に標高が高い「須走口(2000m)」、というように、標高が高い五合目から順に登っていた。これまでの流れで行くと、今回は最も標高が低く唯一未登山の御殿場口(1440m)になる。しかし御殿場口五合目は標高が他の五合目よりも圧倒的に低く、さらに標高1550mから3000mまでの道のりの間に山荘が1軒も無い(つまりその区間での飲食物の補給・万が一の雨宿り・トイレの利用等が出来ない)。普段は身体をロクに動かさず、毎回勢いだけで富士登山している自分には到底無理だと思い、今まで御殿場口からの登山を考えた事は全く無かった。ところが御殿場口を意識し始めると挑戦したい気分になっていき、こうなったら四大登山口を制覇するしかない!という結論に達し、まさかの御殿場口五合目からの登山を決意。

一般的に御殿場口から山頂までの登山時間は7〜8時間となっているが、過去五度の登山経験からして10時間は掛かると予想。そして過酷な御殿場口登山と言えども、「徹夜登山・弾丸登山」という登山スタイルは崩したくないということで、ご来光に確実に間に合うよう登山開始は17:00に設定。

六度目の登山その1  御殿場口五合目→山頂

五合目到着時の空模様

夏休み期間中ということで渋滞を予想し、時間に十分余裕を持って12:00に自宅を出発。都内の道路渋滞に巻き込まれつつも高速道路では流れが良く、予定よりも30分以上早い15:30前に御殿場口五合目に到着。驚いた事に、富士登山シーズンにも関わらず駐車場はガラガラ。そして登山者の姿が見当たらない。他の五合目ではありえない状況に、御殿場口のマイナーさを実感。五合目到着時は空に雲が広がり富士山は見えず、登山中に雨に降られる心配やご来光は見られるのかという心配で気分が上がらず。とりあえず17:00まで車内で仮眠をとろうとしたが、眠気は全く無くなかなか眠れず。

16:30過ぎに目を覚ますと雲はだいぶ晴れ、富士山がよく見えるようになっていた。よく見えるけど…だいぶ遠くに見える。他の五合目からの眺めよりも明らかに山頂が遠い。富士山の外から眺めているのと同じような距離感。標高1440mに位置する御殿場口五合目の「五合目」というのは名ばかりで、実際は二合目に相当するらしい。ここから登り始めて本当にご来光に間に合うのか、それ以前に山頂まで登り切れるのか不安になる。

御殿場口五合目駐車場から眺める山頂は遥か遠く

初装備の登山用スパッツ

今回は過酷な御殿場口登山ということで、富士登山六度目にして初めて登山らしい装備を準備。アウトドア用リュックサック・アウトドア用レインウェア・登山用帽子。これまでは家にある適当なもので間に合わせていたが、今回は登山距離が長く山荘が少ないということで、十分な荷物を入れられるリュックと万が一の雨対策が必須だった。そして下山道のほどんどを占める砂礫地帯の「大砂走り」で、靴に小石が入るのを防ぐ登山用スパッツも用意。それと以外?な装備として栄養ドリンク。万が一高山病になって著しく体力が低下した時の切り札として役立つかもしれないと思われ。そこそこ効きそうなヤツを2本持参。

◎今回の主な登山装備
リュックサック 雨に強い撥水加工で、さらに専用のレインカバーも付属。二重の防水効果。
レインウェア 撥水性が高く通気性のよいもの。気温が低い夜間の防寒具にもなる。
登山用帽子 ツバが大きく中にワイヤーが仕込まれていて、ツバの形を自由に変えられる。日焼け対策&雨避け。
登山用スパッツ 砂礫の積もる下山道で靴の中に小石が入るのを防ぐ。大砂走りでは必須アイテム。
栄養ドリンク 高山病による頭痛や、著しく体力低下した時の切り札。
トレッキングシューズ 岩場の多い富士山では靴への負荷が大きいので、丈夫で疲れにくい靴が必要。
ライト 夜間の登山道は暗闇。予備電池と万が一の紛失・故障に備えて予備のライトも準備。
金剛杖 これを持っているだけで富士登山をしている気分になれる!
飲み物 500mlペットのスポーツドリンク×3本と500mlペットのお茶1本。計2リットルの飲み物を用意
食べ物・栄養補助食品 カロリーメイト・ウィダーインゼリー・チョコレート・etc.
防寒具 セーターやウィンドブレーカーなど。深夜〜早朝にかけての山頂は氷点下になる事も。
軍手 手の保護と日焼け対策。
日焼け止めクリーム 日焼けに弱い人は必須。
etc. 必要と思った物はあまりリュックが重くならない程度に詰め込むっ

過去五度の富士登山では、事前の体力づくりや慣らし登山などはせずにいきなり登っていた。しかし今回の富士登山のスタート地点は標高1440m、実質二合目に相当する御殿場口五合目からの登山。普段は全く運動しない人間なので、さすがに身体を慣らしておかないと辛いと思った。それで数日前からジョギングでもしようかと思ったのだが、やっぱり面倒だし連日の猛暑で外を走る気にはなれず、結局何もせず。という事で、今回もいきなり富士登山。

靴紐をしっかりと締め直し、登山用スパッツを装着して、忘れ物は無いかリュックの中の荷物を確認。それからトイレを済ませて登山道入口へ向かう。相変わらず登山者の姿は無く、本当にここから登って大丈夫なのかと心配になる。と、駐車場の管理人が挨拶してくれたので少し雑談。話によると他の三箇所の五合目は何処も満車状態で、駐車場から2、3km下の道路まで路肩駐車の列が続いているところもあるとか。対して御殿場口五合目の朝からの登山者は数える程で、自分の前に登山道へ入った登山者は30分以上前との事。改めて御殿場口のマイナーさを思い知らされる。

御殿場口五合目唯一の売店

登山道入口

登山道入口の鳥居の隣には小さな売店。他の五合目と比べて登山客が極端に少ない御殿場口五合目にある店はこの1軒だけ。複数の建物が並び観光地化している河口湖口五合目とは違い過ぎる。必要な物は全て持参してきているので売店には寄らず、登山道入口の鳥居をくぐって16:40登山開始。

緩やかな道

大石茶屋に到着

雲の動きが随分と速く、再び辺り一面が雲に覆われ後の天気に不安。ただ、陽が射さず暑くないので、無駄に体力を消耗しないで済むのは助かる。鳥居から続く緩やかな道を5、6分歩くと大石茶屋に到着。飲食物やお土産などいろいろ売っている山荘で、実質的にはここが五合目のスタート地点という感じ。とりあえず金剛杖に焼印を捺して貰い、店員と少し雑談。

これは当てにならない

焼印準備中

ここからが本当のスタート

この大石茶屋(標高1550m)から七合目(標高3000m)までの間に山荘が1軒も無いという、他の登山道ではありえないところが御殿場口。大石茶屋に立っている標識には「七合目へ約4時間」と書かれているが、これはかなり健脚な人の場合のようで、自分はこれまでの経験からして6時間前後掛かると予想。他の登山道なら五合目から山頂まで行けてしまう距離と時間。ちょっと気が遠くなる…

大石茶屋から先は延々と続く一直線の登り道。遥か先まで登山者の姿が全く無い。どんだけマイナーなんだよっ!とツッコミを入れたくなる。次第に雲は晴れ再び富士山が目の前に姿を現す。山頂が遠い…と言うか、ここはまだ富士山の外ではないのかと思ってしまうような眺め。先は長い。本当に長い…

延々と続く砂礫の山道

延々と続く山道…

登山道は暫く下山道と平行していて、気分的に下山道の方が歩きやすいので下山道を歩く。地面には砂礫が積もり勾配もあり、小幅で一歩進んでは半歩砂礫に潜る、という感じでなかなか進まない。途中で後ろ向きで歩いてみたり横向きで歩いてみたり、いろいろ試してみる。誰もいないし。後ろ向きだとリュックが前に来て重力の分散的に楽?なので、暫く後ろ向きで歩く。しかし次第に足が疲れてきて結局前向きに戻る。

大石茶屋から1時間ほど歩いて5、6人の下山者とすれ違う。そして遥か先に2人の登山者の姿が見え始める。後ろを振り返ると自分の後から登ってくる人の姿はまだ見えない。御殿場口は本当に人が少ない。辺りを見回せば一面雲海。富士山頂はまだまだ遠くとも、それなりに高い場所にいるらしい。

18:30、五合目から登り始めて約2時間。平行していた登下山道との分かれ道に着く。下山道はそのまま真っ直ぐ急勾配が続く「大砂走り」。登山道は勾配を抑えるためつづら折りの道が続く。つづら折の登山道を見上げると先に2人の登山者。他に人は見当たらない。もしかしたら御殿場口登山道を登る人は10人も居ないんじゃないかと思ってしまう。でも混雑しているよりはいい。他人のペースに流されず自分のペースでゆっくり登れる。

急勾配の下山道

つづら折りの道が続く登山道

18:45に標高2000mに到達。2000mは1年前に登山した須走口五合目と同じ高さ。約2時間登山して疲れて、まだ須走口五合目か…そう考えるとかなり損な気分。標高2000m地点ですでに少し頭が痛い。早くも高山病?そんなまさか。と思いつつ、呼吸が吸うよりも吐く量の方が多い事に気づき、「二回吸って一回吐く」という、マラソンなんかでやる呼吸法にして意識的に酸素を十分吸うようにする。

つづら折りの登山道に入ってから間もなく、単独登山者に凄い勢いで抜かれる。いつの間に後ろから…見た目からしていかにもベテラントレッカーな感じ。それから前方にいた2人組を抜き、暫くすると道ではない斜面から1人山を下りて来て、「ここ登山道ですか」と尋ねられる。どうやらいつの間にか登山道を外れてしまったらしい。かなりお疲れの様子。道を間違えて引き返すのは体力的にも精神的にもかなり厳しい。自分も気を付けないと。

18:50頃の周囲の風景

富士山もどんどん暗く

進めど進めど同じような道、同じような景色が延々と続き飽きてくる。相変わらず砂礫が積もり歩きにくい。陽が沈み富士山は黒いシルエットに変わっていく。本当に翌日のご来光までに間に合うのだろうか、少し心配しながら登る。呼吸を意識的に行うようにしたお陰か、頭痛はいつの間にか治っていた。19:30頃には辺りは完全に暗闇になりペンライトを点ける。当然登山道に照明など無く、周囲に他の登山者もいないので、ライト無しでは身動きできなくなってしまう。登山者が極端に少ない御殿場口の夜間登山はライトが命綱。

やっと新六合目…

新六合目

19:45新六合目に到着。山荘らしき建物があるが閉館している。標高は2590m。富士宮口五合目の2400mと大して変わらない高さ。そう考えると気持ちが萎える。案内板には富士山頂まであと4.7kmと書かれている。ということは、登山開始から約3時間で6.3km進んだ事になる。結構順調?

新六合目では休憩せずに歩いていたら足の疲れと空腹でペースが急に落ちたので、地面に腰を下ろして休憩タイム。考えてみれば大石茶屋を出てから一度もちゃんとした休憩を取っていなかった。高山病の予防や疲労を溜めないためにも途中途中の休憩は大事。歩行距離が長いので少々気持ちが先走っていたかもしれない。

登山に定番?のスポーツドリンクとチョコ

アンテナのようなものを発見

新六合目から約1時間かけて六合目に到着。時間は23:00ちょうど。六合目には山荘の廃墟らしきものがあるだけ。まだ六合目…五合目から6時間強かけてまだ六合目。そして山頂まではあと3.7km。ご来光が出る4:30頃までまだ5時間強あるので大丈夫だと時間的不安を払拭。足が少し疲れてはいるものの、体力的にはまだまだ余裕がある。とりあえずこの調子でコツコツ進んでいくしかない。登山道を見下ろせばライトの光がポツポツと。いつの間にか登山者が増えている。

山頂まであと3.7km

六合目の廃墟

次第に視界が暗く狭くなってきているように感じ始めるも気にせず進む。途中でやたらと勾配のきつい斜面に入りおかしいと感じ、登りかけた斜面を一旦下りる。そこで初めてライトの照度が落ちている事に気づき電池の交換。十分な明るさになり、登山道ではないところを登ろうとしていた事が分かる。危ない危ない。予備電池を持参してきてよかった。夜間登山はライトが命綱。

登山道でたまに見かける立入禁止の標識。これは主に物資運搬用のキャタピラカーやブルドーザーの専用道に間違って入らないように立てられている。特に夜間は道が分かりにくい場所があるので、こういう標識も見落とさないように注意しなければいけない。そして23:50、遂に標高3000mに到達!予定通り順調に進んでる。多分…

バイオトイレ

山頂まで2.7km

七合目っ

小さな灯りが見えたので山荘かと思ったらトイレ。その隣に七合目の山荘。0:00七合目着。山荘は営業しているようだが、窓のカーテンは閉められ静まり返っている。宿泊客が寝ているのだろうか。山荘前のベンチに座って休憩していると、外国人の家族が登ってきた。かなり疲れている様子。御殿場口がハードな登山道だと知っているのだろうか。気になるけど英語が話せないので声を掛けられないのであった。登山開始からすでに7時間経過。富士宮口・河口湖口からの登山だったら登頂している時間。しかし御殿場口はまだまだこれからなのである。

七合目の山荘「日の出館」

0:40七合四勺着。四勺とは何と中途半端な…到着したありがたみが無い。山荘は営業していない様子。三日月が自分のいる場所と同じくらいの高さに見える。富士山の周囲には雲は無さそうで、この調子ならご来光が見られそうな予感。1年前は辺り一面に積雲が広がりご来光が見られなかったので、今回は絶対に見たい。

四勺って…

閉館中の「わらじ館」

三日月くっきり

七合四勺から3、4分歩いて七合五尺。こちらの山荘は営業中のよう。カーテンが閉められ物音はしない。山荘とは別にトイレがあったので利用。ここまで登ってだいぶ足に疲れが出てきたのと、股関節が痛いので十分な休憩をとる事に。圧倒的に登山距離の長い御殿場口に、年中運動不足の体が疲労を訴え始めた。七合五尺には自分が到着する前からいる単独登山者がずっと休憩している。挨拶を交わしてみたがかなり疲れているようで、会話をする元気も無い様子。御殿場口登山道はこの辺りから疲れが出始めるようだ。

七合五尺の山荘「砂走館」

バイオトイレ

七合五尺で十分な休憩をとって登山を再開するが、股関節が痛い…我慢出来ないほどではないけど。砂礫が積もり足を取られる道や、岩場を登らなければならない道が結構しんどい。地面が硬い土で歩きやすくなると凄く楽になる。ただ、高山病による頭痛や体調の悪化などは無く、精神的な負担も無いので気分的には余裕がある。

七合九勺…また中途半端。山荘から人が数人出て来て登山の準備を始めている。山頂でご来光を眺めるのに合わせて宿泊していた人達のよう。どうやら五合目の出発時間と登山ペースはかなり絶妙だったようだ。とにかくここまで順調だというのは間違い無い。ただ、七合九勺に泊まっていた人達はある程度体力が回復しているだろうが、弾丸登山の自分は足の疲れと股関節の痛みでこの先ペースはどんどん落ちていくと思われ、そう考えるとご来光までに登頂できる確信はまだ無い。時間は1:45でご来光まであと約3時間。残る登山距離はあと1.5km。とりあえずベンチに腰を下ろして体を休め栄養補給。七合九勺はご来光を眺めるのに好適地のようだが、無論こんな所にご来光まで留まるつもりはないので、10分そこそこの休憩で先へ進む。宿泊組に負けてはいられない。

九勺って…

七合九勺なのに「赤岩八合館」

へぇ〜

2:20八合目に到着。標高3400m、山頂まであと1.2km。本当にあともう少し。とは言っても、標識には山頂まで90分と書かれてある。となると山頂到着が4:00頃、山頂の山荘で暖を取りながらゆっくり腹ごしらえする時間は無さそう… ここまで登って来てふと気づく、過去二度の徹夜登山の時ほど寒くない。前回の須走口登山の時には七合目でウィンドブレーカーを着ていたが、今回はまだ着ていなく必要無さそうな感じ。風がほどんど出ていない事や例年以上の猛暑が関係しているのだろうか。とにかく夜間の厳しい寒さは体力消耗の大きな要因のひとつなので、あまり寒くないのは助かる。廃墟と化した八合目の山荘を横切り山頂へ向けて歩く。

八合目

朽ち果てた山荘

八合目からのラストスパートは結構キツく、途中途中で足を止めて休憩をとる。ここで切り札の栄養ドリンク投入。そして気合で登り続け見えてきた山頂の鳥居。どうやら九合目には何も無く通過していたようで、3:58御殿場口山頂に到着。やった!!無事御殿場口徹夜登山達成。そして四大登山口制覇!!大きな事を成し遂げた気分。そして以外なのが身体の状態。相変わらず股関節の痛みと足の疲れはあるが、それ以外大きな疲労感や高山病の症状も無く、これまでの富士登山の中で登頂時のコンディションは最も良いと思う。登山ペースや呼吸法、十分な休憩や栄養補給などが総合的に良かったのだろうか。これまでで一番過酷な御殿場口登山なだけに、登山開始からいろいろ気を配ったのが功を奏したのかもしれない。

御殿場口山頂の鳥居

閉館中の御殿場口山頂の山荘

御殿場口山頂にある山荘は閉館中。御殿場口は営業している山荘がとことん少ない登山道だった。ご来光まではあと30分ちょっと。腰を降ろして休憩する余裕は無く、ご来光の見物スポットへ移動しなければならない。富士宮口山頂方面から多くの登山者が河口湖口山頂方面へと、山頂を反時計回りに歩いていく。おそらくご来光の見物スポットへ移動していると思われ。自分は今回は富士山測候所からご来光を眺めようと思っていたのだが、何となく人の流れにつられ測候所とは逆の河口湖口山頂方面へ向かう。