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その7  3日目昼前〜

 

崎津集落

(さきつしゅうらく:熊本県天草市)

まもなく最終目的地の崎津に到着するという所で、運転している道路に違和感を覚える。過去2度の崎津訪問では海岸沿いの細道を通って集落まで行ったはずが、ずっと道幅の広い国道を走っている。そして長いトンネルを抜けたところで差し掛かった交差点で、「道の駅 崎津」と書かれた案内標識に目が留まる。自分が記憶する限り、以前は崎津に道の駅は無かった。やはり以前とは様子が異なるようだと、妙な不安が生まれる。交差点を左折すると道の駅だが、とりあえず集落中心にある教会へ向かうため右折すると、そこは崎津集落を通る細道だった。そうだ、以前はこの道を車で通ったんだと思い出したのも束の間、交差点の直ぐ先で係員に車を止められ、観光客は車で通行できない事を告げられる。その道路脇に設けられた駐車スペースは満車で、道の駅に車を停めるよう指示される。元々崎津は観光地としてあまり知られていないマイナースポット(多分)で、「自分だけのとっておきの場所」的な隠れスポットだったが、いつの間にか側を国道が開通し、道の駅ができ、まるでメジャースポットのような感じになっていた。この事実に少なからずショックを受ける。

崎津に道の駅ができていた

11:00に道の駅崎津に到着。2年前の2018年12月に開業したばかりの新しい道の駅だった。小規模で落ち着いた雰囲気の道の駅。普通車の駐車スペースは10台ほどしかなく満車だったため、係員に隣の公民館の駐車場に誘導される。今回は盆休み中の訪問なので普段より観光客が多いのかもしれないが、だとしても新しく出来た国道と道の駅の影響で崎津がアクセスし易い観光スポットとなり、「自分だけのとっておきの場所」ではなくなってしまった事に改めてショックを受ける。まさかこんな展開になるとは考えもしなかった。

道の駅の建物は和風のこじんまりとした雰囲気の外観で、ひっそり佇む崎津集落の景観に合っている。しかしここに道の駅がある事自体が気に食わない自分としては立ち寄る気にもなれず、車を停めて直ぐに教会へ向かう。

道の駅崎津の建物(逆光気味で暗い…)

今回の車中泊旅行の最終目的地であり、そして旅行記のタイトル通り一番の目的地に無事到着することができたが、何とも複雑な心境からの崎津観光になってしまった。もしも今回の崎津訪問が初めてだったならば、便利な道路と道の駅がある観光地という事で、何の不満もなくいい気分で観光していたのは間違いない。

道の駅から眺める崎津集落

道の駅から崎津教会までは約700m。車では入れなかった集落の道路を歩いて向かう。道の駅と公民館の駐車場まで満車だったので観光客の姿が多いだろうと思っていたが、通りを歩く人は数えるほどだった。崎津は熊本市から車で100km強の道のりで、近くに際立った観光地があるわけでもないので、少しアクセスがし易くなった程度では来訪者は増えないのかも知れない。

徒歩で教会へ向かう

くまモン!

教会前の通り

教会へ続く道へと折れる交差点に差し掛かると、観光案内人が2人も立っていて驚く。崎津が観光促進に積極的な場所になってしまった…と、いちいちショックを受ける。観光案内人に崎津集落の散策マップを配られ目をやると、「世界文化遺産」という文字が。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産…という名目で、2018年に崎津が世界遺産登録されていた。なるほど、それで道の駅がつくられて観光地化されたのか。崎津の人達にとって世界遺産登録は喜ばしい事なのかも知れないが、観光地化されて生活が人目に触れることを好まない住人も少なからずいるはず。何より自分は嬉しくない。我がまま自分勝手と言われようが嬉しくない。

そして崎津教会に到着。9年前の再訪時は雨が降り出しそうな曇天が残念だったが、今回は快晴に恵まれ真っ青な空と真っ白な雲をバックに教会を見ることができた。教会には詳しくないしあまり関心も無いが、こじんまりとしたゴシック様式の崎津教会はいい建物だと思う。

前回の崎津観光で教会内に入った事もあり今回は入らず。教会敷地内や教会前の通りには観光客の姿がポツポツとあるものの、盆休み中で昼時という時間帯にしては少ない。それと、必要以上に観光客目当ての店や景観を崩す看板なども無く、自分が知る静かでひっそりとした崎津集落は、それほど大きく変わってはいなかった。崎津に着いた時は観光地化されている事にショックを受けたが、少しだけ安心した。それと、3度目の訪問という事や暑さに参っていた事もあり、町並みや教会の写真を数枚しか撮らなかったのは失敗だった。

教会前から見る展望公園の山

崎津諏訪神社が展望公園の入口

そして今回の旅で一番行きたかった場所、教会の見えるチャペルの鐘展望公園へ向かう。公園は教会前の通りから見える小高い山の上にある。教会前の通りを交差点まで戻り、そのまま真っ直ぐ進んだ所にある崎津諏訪神社の鳥居が公園の入口。思い返してみれば、2001年に行なった日本一周旅行で初めて展望公園に立ち寄ったのは、本当に偶然の出来事だった。天草市を運転中に腹痛になり、トイレを探していて見つけたのが崎津諏訪神社の鳥居の手前にある公衆トイレだった。そして用を足した後に目に留まったのが「教会の見えるチャペルの鐘展望公園」の案内板。

長ったらしい公園の名前と、階段を500段上った所にある公園からの眺めに興味が湧き、用足しついでにたまたま立ち寄った訳だが、公園の佇まいとそこからの眺めが強く印象に残り、自分にとって趣深い場所となった。旅というものは計画通りに進む事が最良とは限らず、ふとした気まぐれや予定外の出来事がきっかけで、思わぬ発見に出会う事もあるのだと再確認。いろいろと寄り道ができるよう、観光時間に十分余裕を持てる旅行計画を立てた方がいいとも考えさせられる。まぁ、崎津に関しては腹痛がきっかけだけど。…ちなみに、再訪時まで神社手前の公衆トイレはよくある質素なものだったが、世界遺産になった影響か和風の立派な公衆トイレに建て替えられていた。

神社から集落と教会を見る

参道の階段を上って境内奥の拝殿まで進み、さらに拝殿左手の道を行くと長い階段道に差し掛かる。ここから展望公園まで約500段の階段が続く。2011年4月の再訪時は、公園にある巨大木製十字架のモニュメントが老朽化で危険なため立入禁止の標識が立てられていた(十字架から落下物の恐れがあるので近寄らないようにとの注意書きがあったので、近寄らないよう自己責任で公園まで上った)。その十字架は撤去され現在は無い事を、旅行計画時にネットで情報収集をしている時に知ってしまった。これも結構ショックな事実だった。

崎津諏訪神社拝殿

ここから約500段の階段が続く

外は相変わらず暑くてたまらないが、展望公園まで続く階段道は周囲の木々に覆われ日陰だったので助かった。お陰でサクサク足が進む。炎天下で500段の階段を上っていたら間違いなくバテていた。階段を歩いている間に見掛けた観光客は、上から降りてくる1人だけだった。崎津を訪れても500段もの階段を歩こうと思う人は少ないらしい。そもそも展望公園からの素晴らしい眺望を知らないのかもしれない。

階段道は木陰なのが救い

公園の手前にも鳥居

はやる気持ちに押されて無休で一気に上ったので、諏訪神社から5、6分で展望公園に到着。結構疲れた。日陰だった階段道から厳しい日差しが降り注ぐ公園に出ると疲れは倍増。ともあれ、19年前に訪れた時から特別な場所であり続けた教会の見えるチャペルの鐘展望公園に到着。過去2度の訪問時と同じく観光客は誰もおらず、絶好の展望スポットを独り占め。

教会の見えるチャペルの鐘展望公園

2001年10月撮影

展望公園は円形ステージのような造りになっていて、沢山ベンチが設置されている。結婚式やイベントなどを行なう事を想定して造られたらしいが、参加者全員が500段もの階段を上らないといけない事を考えると、そのような用途にはほとんど使われていないと勝手に推測。元々十字架が建っていたステージには鐘楼が設置されていた。木製の巨大十字架が老朽化により撤去されてしまったのはやはり寂しい。2001年10月の初訪問時と2011年4月の再訪時に撮影した十字架の写真を見比べると、再訪時の十字架には金属製の補強がされている事が分かる。個人的には十字架を再建して欲しかった。巨大十字架は教会前の通りからも見え、教会と並ぶ崎津集落のランドマーク的存在だったと思う。

2011年4月撮影

十字架があった時の公園の様子(酷い曇天…)

教会前の通りから公園の十字架を見上げる

十字架の代わりに設置された金属骨格の鐘楼には、平成4年3月建立と記された鐘が吊るされてある。平成4年は1992年…という事は、展望公園初訪問の2001年より前という事になる。これは一体どういう事だとネットで調べていたら、ステージの地面に直接置かれた鐘の写真を見つけてしまい、さらに謎が深まる。

十字架の代わりに設置された鐘楼

平成4年3月建立と印されてある

さらに展望公園の十字架の写真を検索した結果、十字架のクロスする部分に鐘が設置されている写真を発見。自分が撮った写真では角度的に写っていないが、どうやらこの鐘は元々十字架に吊るされていたものと判明。2度の訪問で十字架を見ているのに全く気付かなかった。目には入っていたが意識していなかったのかも知れない。鐘の地べた置き写真に関しては、十字架の撤去から鐘楼の設置まで多少の間があり、その間だけ鐘を地面に直接置いていたのだと推測。ともあれ、今は無き十字架の一部である鐘だけでも残されていると考えると、少し救われたような気持ちになる。

まぁこれはこれでいいんだけどね

公園の側壁南側にも鐘

展望公園にはもうひとつ鐘がある。南側の側壁の上に小振りな鐘が設置されている。十字架に吊るされていた鐘の存在を知らなかった自分は、「教会の見えるチャペルの鐘展望公園」の"チャペルの鐘"とはこの鐘の事だと思っていたが、どちらかと言えば十字架に吊るされていた方を指していたのかも知れない。

こっちの鐘の方が馴染みある

小さくてもいい音鳴るよ

<< SCROLL    教会の見えるチャペルの鐘展望公園南側からの眺め パノラマ写真180°    SCROLL >>

小さな鐘がある公園南側からは、複雑に入り組んだ羊角湾(ようかくわん)の内海と東シナ海を眺望。ここは海に沈む夕日を見られる夕景スポットでもあるようで、案内板には「冬場・1日のフィナーレを飾る太陽の彩典がすばらしい」と書かれてある。そして東側からは崎津集落が木々の間から見え、狙った構図のように崎津教会が中心にある。その後ろには深緑色の内海と低い山が左右に広がっている。初めてここを訪れた時に、自分の目にはこの風景がとても印象的に映った。そして今回3度目の眺望となるが、変わらず印象的で長閑で落ち着く風景である事に変わりはなかった。

<< SCROLL    教会の見えるチャペルの鐘展望公園東側からの眺め パノラマ写真180°    SCROLL >>

今回は3度の訪問中1番の快晴に恵まれ、夏の日差しを浴びた内海のコントラストが強く一層風景が引き立っていた。展望公園から見下ろす崎津集落と教会の様子は、2001年の初訪問時からほぼ変わっていない。観光地化され崎津がすっかり変わってしまったのではないかと心配したが、19年前と変わらぬ教会の見える風景を見てホッとした。やっぱり崎津へ来て良かったとしみじみ思った。崎津が世界遺産になった経緯や教会についての詳細などを検索して、ここで簡単に紹介しようかと思ったが止めた。自分は単純に展望公園からの教会の見える風景に惹かれただけなので。心から惹かれる景色がそこにある、それだけでいいのだ。

この風景をもう一度見たかった

展望公園からこの風景を見るのはこれが最後になるだろうか、それともまたこの風景を見るために崎津を訪れる日が来るだろうか、そんな事をしみじみ考える。崎津を初めて訪れた2001年10月の時点で自分は23歳だった。それから9年6ヶ月経った再訪時は32歳、さらに9年4ヶ月経った今回の再再訪では42歳。もしかしたらまた同じくらいの年月を経た時に訪れたくなるかも知れない。その頃に自分は50歳を過ぎている…

教会と集落

教会ズーム

あれこれ想いが頭の中を巡り、ノスタルジックでセンチメンタルな気分にさせられ、ボーっと教会のある風景を眺める。が、そんな郷愁感や感傷的な気持ちも萎えてしまうほどに暑い。身体から大量の汗が流れ、喉が渇き、気力は低下し、熱中症の危険を感じ始める。この後は帰路へ向かうだけなので暫く展望公園でゆっくりしようと考えていたが、滞在時間は30分が限界だった。

暑くてもう限界…

最後に平和を願って鐘を鳴らす

最後に鐘楼の鐘を鳴らして引き上げようと、鐘の紐を持ったところで町内放送が流れる。この日は8月15日の終戦記念日という事で1分間の黙祷を促し、追悼のサイレンが鳴り響いた。時間はちょうど正午。そうだった、情けない事に全く気付いていなかった。サイレンが止んだ後、平和を願って鐘楼の鐘を鳴らした。

展望公園の外に鳥居と祠

古さを感じる祠

鳥居に積石した

コンクリートの壁に囲まれた円形の展望公園の外に、木陰にひっそり隠れるように小さな鳥居と祠があり、公園を出る時に立ち寄り。以前から存在自体は知っていた気もするが、鳥居をくぐって立ち入るのは今回が初めて。石造りの鳥居と祠は古さを感じ、展望公園が出来るずっと前から存在していると想像。鳥居には沢山の積石がされていたので、人生で初めて積石をしてみる。これからも教会の見える風景があり続ける事を願って。が、積みやすいよう出来るだけ平たい石を探してやってみるも、バランス良く積むのは思ったよりも難しい。何段も重ねられた積石や凝った積み方をしたものを見掛けることがあるが、それらは絶妙なバランスで積まれているのだと身をもって知った。そして暑さにやられて集中力も無い事もあり、結局三段しか積めずに終了。気持ちは十段以上あるのでいいのだ。

余力があれば最後に崎津集落を軽く散策しようと思っていたが、暑さによる疲労で全く余力は残っていなかったので、展望公園から下りたら直ぐに道の駅へ引き返す。予定通り昼までに観光を終えて時間は12:30。1時間半駐車していたマイカーの車内温度は地獄のような暑さになっていたので、エアコンをつけて車内が冷えるまで外で待機。真夏は駐車中の車内温度上昇が本当に厄介だ。車内温度が下がってから運転席に座ったところでホッと一息。あとは自宅へ帰るだけだとカーナビで目的地を自宅にセットすると、走行距離は534km、到着予想時刻は21:30と出た。500km強の道のりを9時間かけて運転…本当に気が滅入る。

まずは高速道路に乗るために熊本市の方へ戻らないといけない。崎津のある下島は海沿いを走った往路とは別の最短ルートを通り、隣の上島からは往路と同じルートで進む。天草五橋を通るドライブルートの天草パールラインに入る手前から道路が混雑し始め、やがて完全な渋滞となりノロノロ運転が続く。渋滞にうんざりして途中で休憩したくなったので、天草五橋の3つ目と4つ目の橋の間にある大池島のパーキングに車を停める。パーキングからは天草諸島に浮く小島(と言うか岩?)が点在する風景を眺望。いい気分転換になった。

天草パールラインは渋滞

<< SCROLL    大池島のパーキングからの眺め パノラマ写真180°    SCROLL >>

天草パールラインを通って大矢野島を通過し、天草五橋の1つ目である天門橋(朝に展望所から眺めた橋)の1号橋を渡って宇土半島に入ったところで、道を間違えて帰路から外れてしまい、Uターンできる場所を探して進んでいたら三角西港にたどり着く。公園のようになっていて駐車場もあり、折角なので休憩がてら三角西港に寄り道。朝一に海のピラミッドを観光するため三角東港へ寄っているので、これで東西両方の三角港へ行った事になる。

<< SCROLL    三角西港から眺める大矢野島 パノラマ写真180°    SCROLL >>

三角西港からの眺めは正面に大矢野島が広がり、宇土半島とを繋ぐ天門橋1号と新1号が重なって見える。港の前には浦島屋という洋館が建っていて、中に入れるので日差しを避けるために避難。明治時代の旅館を復元したものらしい。建物2階にラウンジがあったので椅子に座って休憩。崎津を出てから2時間になるが、まだ80kmしか進んでいない事を考えると先が思いやられる。本当に長い長い帰路だ。

浦島屋

帰路が長過ぎる…

宇土半島から熊本県本土に入り、通りがかったファミレスに入店し遅い昼食。まだまだ帰路は長いのでしっかり腹ごしらえをする。そして九州自動車道松橋ICから高速道路に乗り、自宅最寄の山陽自動車道志和ICまで約420kmひたすら高速を走る。終始車の流れは良く、思った以上に運転に集中する事ができ、それでも休憩はしっかり取りつつ順調に進む。何故か高速道路を運転しているうちに疲労はだいぶ回復。炎天下から解放され、エアコンで涼しい車内にずっといたからかも知れない。自宅最寄の高速ICを下りたら日頃利用しているガソリンスタンドに寄って給油し、スーパーにも寄って晩酌のためのアルコールとつまみを買い込み、21:00過ぎに無事帰宅。